Alice force プロローグ 2.
「ファミレスでの誓い」
市原「はい、ではそのように手配お願いします。それと春日さん、マスコミの方へはどのように・・・
はい・・・ええっ! そうなんですか!? わかりました! 何から何までありがとうございます!」
その、一目でレスラーとわかる風貌をした女は携帯電話での話を終えると、
そこから少し離れたファミレスへと足早に向かって行った。
そこでは既に彼女の仲間が集まっていた。
椎名「あ、市原さん!こっち、こっち!」
市原「ふう、ちょっとアンタ達、なんで4人がけの席に座ってるのさ。私が座れないじゃないか。
誰かどきなよ」
周防「向かいの席のイスを持ってきて座ればいいんじゃないですか? 市原さん」
椎名「ダメダメ、市原さんは太りすぎてイスに座れないんだよ・・・」
市原「座れるよ! でも私はソファに座りたいんだよ。ほら、誰かが私に席を譲る!」
深上「そうしたいんですけど、椎名がどいてくれないと自分は動けません」
椎名「私もイスよりソファがいいし、動きたくないな。こういう時は最年少の遥ちゃんが譲るべきだよ。
確かカウンターの所に子供用のイスがあったはずよ、持ってくれば?」
周防「ちょっと小さいからって子供扱いするな! 私はヤだよ、霧原さんの隣がいいもん。
椎名は廊下側の席なんだから椎名がどけばいいでしょ?」
椎名「そーゆー所が子供なんだってば」
市原「あのなぁ。・・霧原、後輩のしつけがなってないよ。みんな、霧原が若手の頃なんてねぇ・・・」
霧原「わかりましたっ! 私がどきますから、昔話は勘弁してください・・。
市原さん、どうぞ」
周防「霧原さーん・・行かないで・・」
市原「うんうん。こういう謙虚な姿勢が大事だね。
三人とも、霧原のこういう所は見習いなさいよ。・・・どっこいしょっと」
椎名「うわ、市原さん、オバサンの掛け声だ」
市原「椎名、いちいちうるさい」
周防「・・・狭い・・」
深上「霧原先輩・・なんか弱みでも握られてるんですか?」
霧原「・・・・深上、お願いだから放っておいて・・・」
市原「オーダー頼みまーす。コレとアレとソレとコレ、あとホットミルクね。
・・・さてと、みんな集まってるようだし、本題に入るよ。
でもまさか、深上、周防、まさかあんた達までついて来るとは思わなかったよ。
PWWAとしては、私ら二人よりお前達二人の離脱の方が痛かったかもね。
で、二人は私と霧原がPWWAをやめた理由、知ってる?」
深上「承知してます」
周防「霧原さんはあの事故以来、ポストからのダイブができなくなって、
復帰前から公言していたPWWAタイトルの挑戦権が認められなかったのが原因ですよね。
霧原さんにとっては事実上の戦力外通知。
コーナーから飛べないトップレスラーなんて他にもいっぱいいるのに、どうして霧原さんだけが・・・。
それで、市原さんはどうしてやめてきたんです?」
椎名「一ヶ月で20Kgも絞ったから着る物がなくなったんだよ・・お金ないのに・・」
周防「そうだったんですか、大変ですね・・・」
市原「違う! ・・・・・二人とも哀れんだ目で私を見るな!」
霧原「・・PWWAは、もう世代が変わったのよ。
私も市原さんもPWWAではもうトップには挑戦させてもらえなくなった。
一部のマスコミには『逃げ出した』って書かれてたけど、そんな簡単な事じゃないわ」
市原「そうだね。これまで世話になったPWWAには感謝してるけど、
今となっちゃ、PWWAは私ら二人を過去のスターとしか見てないんだよね。
今の待遇だったら、これ以上会社に尽くしてやる義理はないね」
周防「霧原さんはともかく、市原さんもスターだったの?」
市原「知らないの? 10年前は今の周防よりも人気あったんだよ。
ただ、私は勝つ事よりもお客さんを喜ばせる方が好きだったから、トップの座は狙わないで
前座の試合に賭けてたんだ」
椎名「それで、今になってトップに立ちたくなったのか。ちょっと遅くないですか?」
市原「前から思ってたんだけど、きっかけがなかったんだよ、椎名が来るまではね。
長い現役生活で体もガタガタだけどさ、せっかくプロレスラーになったんだから、
一回くらいベルトを巻いてみたいじゃない?」
椎名「まぁね・・私も中堅に埋もれてる感じだから、わかる気がするよ」
深上「わかりますよ。オレもトップに立ちたくてPWWAを出てきたんだから」
霧原「深上が? なんで? 深上ならもうトップは目前だったじゃない。
私からPWWAタイトルの挑戦権を奪ったんだし・・・」
深上「霧原さん、いじわる言わないでください!
あの試合だって、霧原さんは一部の心もとないファンからのブーイングがあったから・・。
自分は本当の意味で霧原さんを超えてない事はわかってます。」
霧原「深上、あの時の深上は最強だったわよ。私が認める。
この私に勝ったんだから、もっと自信を持って良いわよ」
深上「は、はい、ごっつあんです!」
周防「霧原さん、私は!? 私も褒めて!」
霧原「遥も強いよ。私と同じくらいの年で世界ジュニアチャンピオンになってるでしょ。
しかもベルトを返上してまで私の下へ来てくれた。だから、遥はこれからもっと強くなる。
もっともっと自信を持っていいわよ」
周防「わーい、霧原さんから褒められた。ありがとうございまーす」
市原「さてと、話を戻すよ。周防と深上も加わった事だし、私らが女子プロレスの頂点に立つ事は、
あながち不可能ではなくなった。さしあたって、私らがトップだと認めてもらうためには、
まず私らの名前を売らなきゃならない」
霧原「そうね、売るためにはチームの名前もあった方が良さそうね」
市原「そうだね」
深上「(コク)」
椎名「そうだね・・・」
周防「そうですね。チーム名は、ミラクルプリンセス・ウィズ・フレンズ、MPWFなんてどうですか?」
椎名「なんで、『遥とそのお友達』なのさ・・一番年下の癖に」
周防「トシは関係ない!」
霧原「私は夢のある名前がいいな。
ドリームチーム・・・じゃどこかで聞いた名前だし、ドリームキャスツなんてどう?」
椎名「それもどっかで聞いた名前っぽい・・。
それに、ドリームってつくのが夢のある名前って、やっぱり霧原さんは・・・」
周防「椎名! 霧原さんに文句を言うなら、アンタもチーム名を考えなさいよ」
椎名「うーん・・・ドリームだったらスウェアー・ドリームス、『夢に誓う』っていうのはどう?」
霧原「いいわね、私はそれがいいよ」
周防「霧原さんがいいなら私もそれでいいでーす」
深上「・・同じく」
市原「そうだねぇ。悪くないけど・・・ただ、夢っていうとさ、なんか遠い感じがするんだよね。
私らがトップにまで上り詰めるのは、夢って言うほど遠くないんじゃないかな?」
周防「いいじゃないですか。こんな時代だからこそ、夢を見なきゃいけないんですよ」
市原「若いあんた達はいいけどさ・・。私はちょっとね。
『夢』じゃなくて『欲望』、スウェアー・デザイアーズって言うのはどう?」
椎名「『欲望に誓う』・・・英語として以前に、言葉として変な気がする」
深上「いや、オレはそっちの方がいいな。『夢に誓う』だとやっぱりちょっと恥ずかしくて・・」
市原「霧原も賛成だよね、いつまでも少女趣味じゃ・・・」
霧原「わー! 言わないでください!!
はい、私も賛成です。デザイアーズの方がちょっとワルっぽくてがいいかも知れない」
周防「私はワルっぽくない方がいいんだけどなぁ」
市原「でも周防は霧原が賛成なら賛成だろ? 椎名もこれでいいよね?」
椎名「しょうがないなー。
今日のところは、ここの代金を奢ってくれる文字通り太っ腹な市原さんに免じて・・・」
市原「おいおい・・」
深上「ごっつあんです、市原さん」
周防「市原さんが奢ってくれるんだったら、パフェもう一個食べよっと。すみませーん!」
市原「あのなぁ・・・いいよ、今日はSwear Desiresの結成記念だし、奢ってやるよ」
霧原「チーム名も決まったし、今日はこれでもう解散ですか?」
市原「いや、もうひとつ吉報があるんだ。
明日、私達の記者会見があって、私達がSwear Desiresとして結成された事を正式に発表する。
その席で発表する事になると思うけど、私たちの上がる最初のリングが決まった」
霧原「それは嬉しいです」
周防「やったぁ」
椎名「いいね!」
深上「・・・で、どこのリングなんです?」
市原「知り合いのプロモーターから紹介してもらったんだけど、
昔、ちょっとの間一緒にやってたレスラーがいてね。
その式部ってヤツが経営するプロレスアカデミーの団体、Aliceだ」
深上「Alice・・うーん、聞いた事ないな」
椎名「Aliceかぁ、私は知ってる。まだ新しい団体だね。きっと活気に溢れてると思うよ」
霧原「新しい団体・・。私は少し心配だわ。選手の質もそうだけど、勢いで旗揚げされた団体って、
どこも経営がずさんだから。ギャラの心配だって出てくるし」
市原「式部の生徒なら、試合の質はPWWAに負けてないんじゃないかな、多分。
まぁ、オーナーはクセモノだって言うけどさ、彼女も社長って肩書きがあるからね。
ギャラも前ほどではなくても、それなりに出してもらえると思うよ」
霧原「そっか、今は私もそんなに贅沢は言わない身だしね。出れるだけでも嬉しいもの。
6月以来、久しぶりのリング。嫌でも気合が入って来るわ」
市原「私もそうだね。Swear Desiresのデビュー戦と同じく、新生、市原千晴のデビュー戦でもあるから。
みんなにも今まで見た事がないような私を見せてやるよ」
周防「Aliceにはジュニアのベルトはあるのかなー」
市原「どうかな・・?」
椎名「うーん、確かなかったと思うよ。でも、遥ちゃんのずっこけ次第で作ってもらえるかもよ」
周防「なんで私がずっこけるとベルトが作られるのよ! 大体椎名はねー!」
市原「ほらほら、モチベーション上がってきてるのはわかるけど、ここでケンカしない。
そうだね、みんなも気合入ってる事だし、これからマリーナジムまで練習に行くか!
あそこならリングもあるし!」
周防「いいですね!」
椎名「OK、ボス!」
霧原「深上や周防とトレーニングするのも久しぶりだね。たっぷりとシゴいてあげるから覚悟しなさい」
周防「はーい」
深上「お願いします!」
椎名「それじゃあさ、その前にチーム名に倣って最後に大声で誓おうよ。みんなの欲望にさ」
市原「いいね!」
霧原「こ、ここで・・?」
深上「非常識だな」
椎名「いいからいいから。こういうのはノリが大事なんだよ。それじゃ行くよ!
私達は誓う!!!」
(全員)「私達は誓う!!!」
椎名「一番になりたいと言う欲望に!!」
(全員)「一番になりたいと言う欲望に!!」
椎名「We Swear Desires! We most the professional wrestler in this business!!」
(全員)「We Swear ゴニョゴニョ・・」
その後、怯える店員やあっけに取られる他の客を尻目に彼女達は夕闇の中へと消えて行った。
明日への夢、いや自分達の純粋な欲望を満たすために。
しかし、彼女達は自分達を待ち受ける運命を知る由もなかった。
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